美意識の高まりやSNSなどでの口コミの多さから、老若男女を問わず人気が高まっている美容クリニック。
ほとんどのメニューが自由診療となる特性上「儲かる」というイメージがある方も多いでしょう。しかし、市場は年々激化し、都市部は大手クリニックがひしめき合っているのが事実。そのため、開業前に綿密に戦略を立てることが経営を成功させるためには重要です。
今回のコラムでは、「美容クリニックの開業準備を進めたい」「美容クリニックの経営を成功させるポイントを知りたい」などの疑問を解決できるよう、開業について詳しくお話ししていきます。
もくじ
美容クリニック開業資金の目安は
一般的に美容クリニックを開業するためには5,000万円〜1億円程度の資金を用意する必要があります。他の診療科を開業する場合の目安を見てみましょう。
- 内科:5,000万円~
- 皮膚科:3,000万円~
- 心療内科・精神科:2,000万円~
- 小児科:5,000万円~
- 耳鼻科:4,000万円~
他の診療科と比較しても、美容クリニックは高額であることが分かります。これには、美容クリニックで使用する医療機器が非常に高価なことが関係しています。高いものであれば、1台で数千万円を超える場合も珍しくありません。
それに加えて
- シミ取りレーザー
- イオン導入
- 医療脱毛
- ハイフ
などメニュー展開の幅が広く、美容機器を何台も購入しなくてはいけません。医療機器を複数用意するだけでも何千万もの資金が必要となり、加えて物件やスタッフの賃金などが必要となるため、費用は膨らんでしまいます。
美容クリニックの開業資金を抑えるためには
美容クリニックといっても【美容皮膚科】【美容外科】がありますが、取り扱いメニューによって開業費用に差が出ます。一般的には、手術を行う美容外科の方が開業費用はかさみますが、高額な医療機器を選択すれば、それに伴い開業費用は増加します。
なるべく開業資金を抑えたいと考えるのであればメニュー展開を工夫し、美容機器を数台に絞るのも手です。
その1つの例として昨今、急増しているのが医療脱毛のみを取り扱う脱毛クリニック。業務用脱毛機のみ用意すればいいため、費用をぐんと抑えることが可能です。
ただし、脱毛は大手クリニックやエステサロンなどが席巻しているのも事実。男性専門や子ども向けなど明確なターゲットと差別化できるコンセプトが必要でしょう。
美容クリニックの開業資金の内訳
開業資金は初期費用(イニシャルコスト)と運営費用(ランニングコスト)に分けることができます。それぞれ2つの費用についてそれぞれ詳細な内訳を紹介していきます。
- 初期費用(イニシャルコスト)
- 運営費用(ランニングコスト)
初期費用(イニシャルコスト)
初期費用とは、開業するために必要な費用を指します。サービスを提供する場所を借りるテナント料や治療に使用する医療機器などが、これに含まれます。
- 医療機器代
- テナント料(敷金・礼金・前家賃・仲介手数料など)
- 内装工事費・インテリア代
- ソファーや診察台などの備品代
- カルテ・予約システム導入費
- 広告宣伝費
- 求人広告費
- 医師会入会費
前述した通り高額な医療機器やテナント代が多くの割合を占めています。しかし、安いからという理由で医療機器を決定するのはおすすめできません。美容クリニックのメニュー展開や効果は集客に大きく関係してきます。
美容医療を選択するお客様は、より早く、より分かりやすい効果を求めて来院される方が多いです。納得のいく効果を感じられる機器を選びましょう。
安価で購入できますが中古機器にも注意が必要です。美容医療ではお客様を美しくするのはもちろんですが安全であることが第一。中古機器でメーカーの保証が切れているようなマシンはトラブルの原因になり得ます。
効果が出なくて結局購入しなおすことになった、メンテナンスに出したら高額な費用が必要だったなんてこともありますので、中古マシンを購入するリスクも理解しておきましょう。
運営費用(ランニングコスト)
医院の運営を持続するために必要なのが、運営費用です。家賃やスタッフの賃金がここに含まれます。
- 人件費
- 家賃
- 福利厚生費
- 広告宣伝費
- 薬剤、備品代
- 水道、光熱費
- 美容機器維持費
- 借入金返済額
- システム維持費
開業直後から黒字になるのはごくわずかなクリニックのみ。開業から数ヵ月は赤字経営になることは珍しくありません。赤字分を補填するために、開業資金には3〜6ヵ月分の運営費用も計上しておきましょう。
経営の安定化には運営費用の見直しが欠かせません。しかし、無理なコスト削減をすれば、スタッフの早期離職を生んだり、リピート顧客離れを生んだりする可能性があります。開業後もしっかりと記録して、定期的に見直せるようにしておきましょう。
美容クリニックの主な融資先
多くの場合開業資金は、自己資金と融資によって準備します。主に活用される融資先を紹介します。
- 日本政策金融公庫
- 自治体の開業支援ローン
- 医師会の開業支援ローン
- 銀行・民間金融機関
- 医療機器のリース会社
- 補助金・助成金
日本政策金融公庫
比較的低金利かつ、固定金利で貸し出しをしている日本政策金融公庫。融資まで時間がかかり、限度額が1,000万円程度と、他の融資先と比較して少ないのがデメリットです。
自治体の開業支援ローン
開業先によっては、自治体の開業支援ローンが利用できることがあります。日本政策金融公庫と同様に低金利・固定金利で利用できることに加えて、審査の通りやすさもメリット。
こちらも融資まで時間が必要なため早めに動き出すと良いでしょう。
医師会の開業支援ローン
地方医師会の加入などの条件がありますが、医師会の開業支援ローンは無担保で融資が受けられるのが大きなメリットです。
医師会会員のための金融機関なので、医療機器の購入費や運転資金はもちろん、物件購入や自動車購入などの幅広い用途も魅力です。
銀行・民間金融機関
審査のハードルが高いですが、民間の金融機関からも融資は可能です。返済期間が10年前後と比較的長いため、無理のない返済計画を立てやすいことが大きなメリットです。
融資条件は金融機関によって異なりますが、クリニック開業を対象としたプランを用意しているところも。いくつかの金融機関を比較して自分のクリニックに、より適した金融機関を選択しましょう。
医療機器のリース会社
医療機器のリースを行っている会社が貸し付けまで取り扱っている場合があります。
もちろんマシンを融資することが条件であり金利は高い傾向にありますが、民間の金融機関と比較して審査が甘くスピーディーな貸し出しが可能です。
補助金・助成金
融資とは異なりますが、政府や地方自治体が提供する補助金や助成金も美容クリニックの開業に使用できることがあります。
返済義務が発生しないのが大きなメリット。申請書類を準備する必要はありますが、積極的に活用すると開業資金を大きく削減してくれます。
例えば、従業員300人以下の医療法人であれば「IT導入補助金」が、電子カルテ導入に活用できます。ただし、ITツールには条件があるため注意が必要です。
美容クリニックが融資を受けるまでの流れ
実際に融資を受ける流れについても確認していきましょう。
- 融資条件の確認
- 必要書類の提出
- 融資担当者との面談
- 審査
- 融資の決定
活用する融資先によって多少の差はありますが、一般的には上記の流れで進めていきます。事業計画書だけではなく、前2〜3年の確定申告書や医師免許証のコピーなど多くの書類をそろえなければいけません。
担当者との面談では、自身の経営ビジョンを資料や言葉でしっかりとプレゼンする必要があります。金利や融資上限、保証人の有無など金融機関からの融資条件に大きく関わるためしっかりと準備して臨みましょう。
美容クリニックを開業するための自己資金割合は
一般的には開業資金の1〜2割程度の自己資金が必要です。つまり美容クリニックの場合、500万円〜1,000万円程度は自己資金の準備をしておきましょう。自己資金の金額は融資条件にも関係しますので、より多くの自己資金を準備しておくのがおすすめです。
注意点としては融資を活用する場合、返済期限が定められていること。
- 設備資金:20年以内
- 運転資金:7年以内
資金計画に応じて返済期間を検討していきましょう。
融資を受けるためには、事業計画書を金融機関に提出しなくてはいけません。その際、一緒に用意する書類の中に返済計画書があります。
- 毎月どのくらいの売上が見込めるのか
- 毎月どのくらいの経費が発生するのか
- 結果的に毎月いくら返済するのか
- その結果、破綻することはないのか
などをまとめた書類で、金融機関に提出します。当然ですが金融機関は返してくれる当てがあるからこそ融資を行います。つまり、現実味にかける返済計画では、融資が下りないこともあり得ます。
市場や競合クリニックの調査、予想売上高など厳しく判定した書類を作成することが、融資のカギを握ります。
美容クリニック開業医の平均年収
多くのメニューが自費診療となるため、利益率が高いのが美容クリニックの特徴。開業医の平均年収は明らかになっていませんが、勤務医の場合1,500万円〜3,000万円ほどの求人が多く見られます。開業医であればそれ以上の収入を得られる可能性があるでしょう。
こうした高額な所得の背景には、自費診療であることに加えて、外科手術の単価が高いことが関係しています。
ただし、前述した通り美容クリニックは他の診療科目より開業資金が高額になるケースがほとんど。安定した収入を得るために、集客やマーケティング、マネジメントにしっかりと予算をかけ投資していかなければいけません。
まさにハイリスクハイリターンなビジネスとも言えます。
美容クリニック開業までの流れ・スケジュール
では実際に、美容クリニックを開業するまでの流れを確認していきましょう。大まかな流れを掴むことでスムーズな進行に近づきます。
- コンセプト決定
- 開業までのスケジュール設定
- 資金計画
- 物件選定
- 資金調達・借り入れ
- 内装・外装工事
- 各種届出提出検査
- 医療機器の選定
- スタッフの確保
- メニュー選定
- 集患計画
- 消耗品備品準備
- スタッフ育成
- 開業
特に注意したいのが各種手続きについてです。手続きをする先が複数あるだけではなく、取り扱う装置や施術内容によって提出する書類も異なります。
- 保健所
- 厚生局
- 税務署
- 労働基準監督署および公共職業安定所
など、実際にはそれぞれ異なるタイミングで相談・届け出の提出が必要です。中には提出日が月に1回しかなく受理までに1ヵ月かかる手続きもあります。
開業準備は、余裕を持って進めていきましょう。少なくとも1年〜1年半ほどあると安心です。心配な場合は専門家にサポートしてもらうと安心して進行できますよ。
美容クリニックの経営を成功させるポイント
美容医療のニーズは年々高まっていますが、それに伴い競合となるクリニックも続々と開業しています。そのため、開業前に戦略を立てるのは必須です。
以下のポイントをしっかり押さえておきましょう。
- コンセプトを明確にする
- 清潔感のある内装外装にする
- アクセスの良い場所を選ぶ
- スタッフの採用・育成計画を立てる
- 集患計画はしっかりと行う
- 開業資金は余裕をもって準備する
- 専門家に相談する
コンセプトを明確にする
まずは、どんなクリニックにしたいのかコンセプトを明確にしましょう。コンセプトとは経営の軸となる部分です。
前述した通り、美容クリニックや美容皮膚科、美容外科は年々増加しており、競争は激化する一方。
安さや近さだけを売りにして集患してしまうと、資金力や薬価の兼ね合いで大手クリニックには適いません。開業後は新規のお客様を集患できたとしても、すぐに離れてしまうでしょう。
- 男性限定の美容クリニック
- 専任のカウンセラーがサポートする美容クリニック
- 韓国で人気の美容医療を試せる美容クリニック
など、コンセプトがはっきりするとターゲットも必然的に決まります。競合との差別化を図りながらどんなお客様に来てほしいのか、どんなクリニックでありたいのか言葉で伝えられるようにしましょう。
清潔感のある内装外装にする
美容クリニックはお客様の美をサポートしていく場です。美意識の高い患者様が多い中で、不潔さや古さが目立つクリニックが選ばれにくいのも至極当然です。
内装や外装はクリニックの第一印象を決める重要なポイント。清潔感のある空間を維持するのはもちろん、コンセプトに合わせて高級感を演出したり、プライバシーを確保できるカウンセリングルームを作ったり、デザインにこだわったりと患者様に合わせて細かな部分まで工夫を凝らしましょう。
アクセスの良い場所を選ぶ
美容クリニックは好立地を選ぶのも大切です。
エステサロンや美容室の場合、隠れ家サロンとして郊外にひっそりと営業するのも良いですが、クリニックの場合はアクセスの良さが集患に大きく関わってきます。公共交通機関からの近さはもちろん、車移動が多い地方での開業であれば駐車場の確保も行いましょう。
スタッフの採用・育成計画を立てる
一般のクリニックや病院では、病気やケガを診療・治療しますが、美容クリニックは美の追求を目的としています。そのため、一般的な診療科と比較してサービス業としての側面が強いのが特徴で、多くのクリニックで施術前のカウンセリングを取り入れています。
お客様のケアをするのは、多くの場合医師ではなく、看護師やカウンセラーです。つまり優秀なスタッフの獲得は、美容クリニックの成功には欠かせません。
美容クリニックの業務は、お客様の受付やカウンセリング、アフターケア、カルテ管理など多岐にわたります。どれだけ資金が潤沢にあってもスタッフが集まっていなければ開業はほぼ不可能です。保険診療を行う病院よりも報酬やインセンティブなど好条件にしておくと採用がしやすくなるでしょう。
加えて、採用後も開業前には医療機器の使い方やカウンセリングなど、美容クリニック特有のスキルについてのフォローも必要です。マニュアルなども準備しておきましょう。
集患計画はしっかりと行う
どれだけ予算を掛けて美容クリニックを開業させたとしても、ターゲットとなるユーザーに認知されていなければ意味がありません。どれだけ医療技術が高くても集患できていなければ経営はたちまち失敗に終わります。
- Web広告
- チラシ配布
- ホームページ作成
- SNSアカウント運用
- インフルエンサー活用
- 看板用意
- フリーペーパー出稿
- 予約ポータルサイト活用
- MEO(マップエンジン最適化)
集患計画はどれか1つだけ行えば良いものではありません。上記の通り、オンラインオフラインどちらも多角的に行いましょう。
開業資金は余裕をもって準備する
前述した通り、美容クリニックの開業資金は他の診療科よりも高くなりがちです。求人費用や広告費用なども含めるとさらに費用は掛かるでしょう。
「資金面が不安で経営に集中できない」なんてことがないように、開業資金はある程度余裕を持った金額を準備してください。
専門家に相談する
美容クリニックを開業するとなると、事業計画書を作成したり、設備の選定をしたり、さまざまな届出を提出したりなど、数が多いだけではなく非常に幅の広い業務に追われます。
医療に関する知識だけではなく経営やマーケティングに関する知識も必要なため、1人で全てを行うのは大変でしょう。そんな時はプロにお願いするのがおすすめです。
- クリニック専門の開業コンサルタント
- 税理士・社労士
美容クリニックは他の診療科と異なる特徴があるため、できる限り美容クリニックの開業実績がある方にお願いするのが良いでしょう。開業後も引き続き、ブランディングの支援をしてくれたり、労務についてアドバイスをしてくれたりする長期間のパートナーを選ぶと経営の大きな助けになってくれますよ。
美容クリニック開業を成功させよう
美容クリニックを開業するための流れや開業資金などを紹介しました。自由診療がほとんどで他の診療科とは大きな違いがある美容クリニック。開業前からしっかりと戦略を立て、予算を投資していけば、運営を基盤に乗せることも可能です。
経営に注力するために、思い切って専任のコンサルなどに依頼するのもおすすめ。美容クリニックの開業を成功させるためにもしっかりと準備を進めていきましょう。